光伝送装置を利用したFM放送導入事例-KISS FM KOBE様-
公開日:2019/10/29最終更新日:2020/01/15
2022年に3.4GHzの電波が終了してしまうことに伴い各FM局は対応に迫られています。
今回はいち早くevertzの光伝送装置を利用したFM放送の送信を導入した神戸の放送局、KISS FM KOBE様にお邪魔して導入の経緯、使用感をお伺いしてきました。
最初のスタートについて
本日はお時間いただきましてありがとうございます。
まずは最初のスタートについてお伺いしたいのですが、どのような経緯からはじまったのでしょうか?
元々は2022年にSTL(スタジオと山の上のリンク)の3.4GHzが終わるけど何か対策はしていますか?という会話からはじまりました。
我々はKISS FM KOBEから約6km離れた摩耶山(標高702m)から89.9MHzで電波を出しています。
KISS FM KOBEから摩耶山までは別の周波数(3.4GHz)で摩耶山に伝送しています。その3.4GHzの電波を山の上でコンバートして89.9MHzで放送しています。
ところがその3.4GHzの電波は2022年にお返ししないといけないのは皆さんご存知のところかと思います。
5〜6年前からずっと3.4GHzの代わりになるものを何にしようかという話しと、ISDN終了に伴う弊社の冗長系の代替を何にしようかという話をしていました。そのままポンって切り替えるわけにもいかないし、何か信用できる代替えの措置をとってから替えたほうがいいだろうかとかそんなこと考えたりとか。
ずっと話をしていたら光なんかでやってみようとかって話になって面白そうだから実験しましょう。と、そんな経緯です。
その時点での懸念点とか疑問点とかはどのようなものがありましたか?
現在、我々は摩耶山の上までコンポジットを伝送しています。
そうでないと山の上に、変調機、リミッターも送信機も全部山の上にあげないといけません。これはものすごく大変です。山の上にいかないと調整ができない。それはしたくないよなぁと。なのでどうしてもコンポジットで送りたい。そんな話をしていたら原さん(ブロードネッツ社)っていう方が勧めてくれたのがevertzの光伝送装置でした。
ただ、最初は(evertzは映像機器という認識だったので)”周波数低すぎてコンポジット伝送は無理。”と聞いていました。
まぁとりあえず親交深めるために飲みに行こうぜとなりまして(笑)
“ところでテレビって何MHzで送ってますの?”というのから会話が始まりました。話しているうちにテレビの周波数の光通過帯域にFM送信帯域がすっぽり収まるとわかって、”使える!!”ってなって、酔いも吹っ飛ぶわけですよ(笑)その後、メールでやりとりをして、”まずは実験しよう”からはじまりました。
ひかりって何?
いざ導入という時点ではどうでしたでしょうか?
実際には光って何?っていうところからはじまりました。
“ひかりは入口から89.9MHzを叩き込めば、向こうから89.9MHzが出てくるよ。同軸ケーブル引っ張ってるのと変わらないよと。”と言われたのですが、どれぐらいタイムラグやディレイがあるのかっていうの全然わからなくて。
初めて実験した時はディレイがほぼほぼなくて数値に出せませんでした。
実験の結果も良い成績だし、機材の手配も大丈夫っていうところまで来ちゃったんで、そのまま作っちゃえばいいやんとなりました。
ただ、一番最後に出てくるのが送信技術の部分。
89.9MHz 1Wっていうのを100%、つまり1Wつっこんで1W出すっていうのは光では直接できないので、少し小さいレベルで入力して小さいレベルで受けたものを大きくする。その部分はエレクトロニツクシステムズさんにお願いしました。
やりたいことはこうだよ。と絵を書き、その後、実験から付き合ってくれていたサンテレビの小畑さんが”じゃーそれなら、俺が全部やってやる”となって全て助けて頂きました。
光を導入したこととディレイタイム
この時点での懸念点はなにかありましたか?
導入する上で一番懸念していたのがディレイです。
なぜかと言うとゲストさんがオンエアーを聴きながらドラムを叩いたりとか。そういうことがよくあるので。
アナログなら、ほぼほぼディレイがないのでそのまま喋れる・演奏ができるっていうのが本来の形なんですけど。
これがアナログtoデジタル、デジタルtoアナログの変換を重ねたりとか、圧縮技術を使ったりとかすると、どんどんディレイが出てきます。
今回抑えたかったディレイ・タイムっていうのが18ミリセック(18/1000秒) 以下です。何故18ミリセックっていう数字が出てきてるかっていうと、過去のデジタルの調整卓のディレイ・タイムが18ミリセック位で、何とか調整卓の出力を聞きながらしゃべれるレベルだったと記憶していたので、18ミリセックは絶対割って欲しいと思っていたんです。
設計時には欲が出て、パーカッションが叩けるように、もっと短い時間でやってほしいとお願いしていました。
実際に光を導入して23キロの距離を走らせて帰ってきたものを計測してみたら1ミリセック以下。マイクロセックに直すと約750μsecぐらいでした。
変換がほぼないので、一瞬にしてマイクロセカンドの単位で飛んできます。これもきっちり計算した計算値ではないのですが。
この値だと音楽ソフトの中でも再現しにくい遅れなんです。音楽ソフトの波形で見て、10KHzで3/4波長だけずれてるよね??みたいな。
マイクロセカンドの世界なので、耳では判別しにくいレベルなんですよね。
これ、もしかするとあの将来的に同期放送の世界まで持って行けてしまうんじゃないかっていうところまでもざっくりと見えたんです。
例えば送信所と演奏所で小規模な同期をかける場合、その3/4波長の長さを調整することはよくよく考えると簡単なこと。どういうことかっていうとその距離だけ巻いたケーブルを通過させたらいいんですよ。例えば当社の場合23km分のケーブルを局内に置いておいて通過させて演奏所で送信すればいいんです。
抱えられる位の23Kmの物が置いてあって、せーのドンって電波を出して、短い方にそれをあてがってあげれば、そしたらタイムが一緒になるんで、瞬間にして同じタイミングで電波が出るっていう。そのまま同期放送ができるであろうと見えています。100%の同期放送。メーターオーダー迄そろえれば完全に同じタイミング。恐ろしいです。
費用について
費用の面ではいかがでしたでしょうか?
今回弊社は無線STLの冗長系として導入していますが、将来的な同期放送のツールとして考えているところもあります。
同期放送に必要なGPSのタイミング装置がいらないのでアンプさえあればいい。っていう。(GPS のクロックを利用して何箇所かの同期をするためのタイミング取る。)
それしなくてもアナログ的に何キロ巻いたら終わりっていう(笑)
よって設備費がまず殆どかからない(能動機器が必要ない)。
送信機が(山から)こちら側に来たけど、同期放送の機材を入れるよりはるかに安いです。
例えば演奏所で作った波を二箇所の送信所で同時に放送するなら、そのまま二分配してケーブルの長さを合わせて、二箇所に送っちゃえばいいわけで。相手にはアンプがあるだけなので。
アンプはそれなりに普通にアナログ的な動作がするアンプであれば。デジタル処理しなければ、その瞬間同じタイミングで同じタイミングの電波が出るっていう。ただのアンプなんてそんなデジタル処理する必要もないと思うんですけどね。だからすごく簡単にできてしまう。
設備費が安くなる。そしてクロックとか複雑なものを入れなくていいんで、機器構成が簡単で単純なので、トラブルの時、故障原因が判りやすいですね。
同じ周波数でエリア全部を、複数のアンテナを立てて放送しようっていう場合の導入コストを下げることができますね。
同期送信所の新設の費用がすごいっていうのは言われてるんですけど、それらから考えれば格段に負担が少なくなります。
弊社は無線STLの冗長系として導入しましたが、光系の品質は、現用の無線STLとほぼ同じ品質になるんで、どちらが冗長かわからなくなります。
もちろん無線、光を双方の冗長系として持っておくのはいいことだと思います。
まずは一旦どっちを冗長系にするかは別として、光で無線と同じ伝送ができるよって、同じタイミングで、ほぼ0タイミングでできるんだよ、っていうのが一番最初の考えだったと思います。
なので、今までと使用環境が変わらないんで光と無線を入れ替えてもほぼ気が付かない。もう一度変えても気が付かない。ほぼ誰も気が付かない。(一同笑い)
普通は変えると、”音質変わったよ”とか言われるんだけど、何も変わんない。何かおこってるの?いや別に。って(笑)全然違うシステムを使っているのにほぼ何も変わらない。
ご満足いただけているようで、大変うれしく思います。ありがとうございます。
今回はKISS FMさんにお邪魔してevertzの光伝送装置を利用したラジオ伝送についてお伺いしてきました。
2022年の3.4GHz電波終了に向けて新たな伝送方法を検討されているなら、光伝送の方法も検討してみてはいかがでしょうか。
取材協力(敬称略)
使用製品
- 7707IFTA 70/140Mhz IFファイバー・トランスミッター
- 7707IFRA 70/140Mhz IFファイバー・レシーバー